平成25年度研究概要

輸血用自己血小板の新規安定供給システムの確立

医療現場において不足している輸血用血小板を安定供給できる新規技術を目指します。

慶應義塾大学 医学部
特任講師 松原 由美子

 血小板輸血は、出血や抗がん剤使用時などで起こる血小板減少の唯一の治療法ですが、その血小板は善意の献血に100%依存しており、医療現場における不足が深刻な課題となっています。全ての細胞に分化できるiPS細胞※1から血小板を得る研究も精力的に実施されていますが、iPS細胞を経由する点で時間がかかる他、さらに目的の細胞へ分化させるには、まだ課題があります。

 本研究は、皮膚線維芽細胞※2を直接巨核球※3へ分化させ、そこから血小板を得ることに世界で初めて成功した技術を基に、少量の皮膚線維芽細胞から短期間で大量の血小板を作製するための効率的な培養方法や、巨核球から大量の血小板を得るための研究に注力します。

  • ※1 iPS細胞:人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)。さまざまな細胞への分化が可能な細胞で、再生医療・創薬への応用が期待されている。体細胞(皮膚組織のものなど)に特定の遺伝子を導入することでiPS細胞へと変化させることができる。
  • ※2 線維芽細胞:皮膚の真皮(表皮の下にある層)に存在し、コラーゲンなどの繊維構造やヒアルロン酸などの保水成分を生み出す細胞。
  • ※3 巨核球:骨髄の中に存在する造血系細胞。直径35~160μmと骨髄中最大の造血系細胞で、血小板を産出する。

 

高信頼性セラミックスエラボレーション

エネルギー分野において重要な基盤材料であるセラミックスの信頼性向上と高機能化を目指します。

横浜国立大学大学院 環境情報研究院
教授 多々見 純一

 

 セラミックスは、磁器やセメント、ガラスなど、我々に馴染み深いものから、電子・光学部品や医療用材料などの高機能なものまで、広い分野で用いられています。特にその耐熱性や放熱性に優れた特性から、燃料電池の多孔質体※1や、パワー半導※2の放熱基板など、現在注目されているエネルギー分野においても非常に重要な基盤材料となっています。しかし、セラミックスは機械的強度の信頼性が極めて大きな課題として存在しています。

 本研究では、セラミックス粒界の破壊特性の実測とシミュレーションに基づく微構造設計および先進粉体プロセス※3を融合することで、機械的な信頼性が高い高機能セラミックス材料の開発を実現します。

  • ※1 多孔質体:細かい孔が多数存在する構造体。なお、高温で稼働する固体酸化物形燃料電池の電極や電解質は、ジルコニア系などのセラミックスが用いられる。
  • ※2 パワー半導体:モーター駆動やバッテリ充電など、電源(電力)の制御をおこなう半導体。大電圧・電流に耐えられ、放熱性の高いシリコンカーバイドなどが次世代のパワー半導体として期待されている。
  • ※3 先進粉体プロセス:微細なビーズを用いナノ粒子を粉砕し、高分散化させるビーズミルや、高圧で対抗衝突させ均一分散させる湿式ジェットミルなど、研究代表者が精力的に進める粉体プロセス技術。セラミックスの原料となる無機材料粉末を細かく粉砕し、均一に分散させるなどの粉体プロセスは、高性能なセラミックスを作製する上で非常に重要な工程。

 

革新的パワーゲーティングによる超低消費電力回路・システムの開発

次世代回路素子の融合により、IT機器の消費電力を大幅に削減する新しい集積回路技術を目指します。

東京工業大学 像情報工学研究所
准教授・菅原 聡

 パソコンやスマートフォンの発展は目覚ましく、従来不可能だった高性能なアプリケーションが次々と実現し、現在の生活において不可欠なものとなりつつあります。これらは、小さな基板上に膨大な数のトランジスタ等の素子を集積できる、半導体微細加工技術の大きな発展により実現されています。しかし、微細化・集積化が進むにつれて、消費電力の増大が大きな問題になっております。

 本研究では、近年開発が急速に進んでいる抵抗変化型不揮発性メモリ素子※1などを用いて、集積回路への最適な組込み方法、回路設計を、シミュレーションおよび試作により検討・実証し、消費電力を大幅に削減する技術の実現を目指します。

  • ※1 抵抗変化型不揮発性メモリ素子:強磁性体や金属酸化物を用いた2端子素子。電源を切っても情報を保持できる次 世代の不揮発性メモリとして開発が進んでいる。