産学公連携事業化促進研究の結果概要(継続課題)

振動エネルギー流れ可視化技術を用いたIndustry4.0対応生産設備の研究

ネットワークアディションズ株式会社、神奈川大学、KISTEC電子技術部

 Industry4.0ではすべての生産設備装置を接続する通信回線を利用した高精度な時刻同期機能と通信帯域制御機能を必要とするため、既存装置に追加設置することでIndustry4.0に準拠したシステム構築を可能にするイベントロガーの開発を進めています。また、本イベントロガーに搭載された時刻同期機能は様々なシステムへの応用も可能です。本研究では、ネットワークアディションズ(株)、神奈川大学KISTECが研究開発を行っている振動エネルギー可視化技術と合わせて本装置の事業化に取り組んでいます。令和4年度は令和3年度試作したイベントロガーを利用し、川下企業からの要望を反映させた装置の試作を実施しました。さらに、本研究における成果を利用することで振動エネルギー流れ可視化技術の事業化に向けたプロジェクトにも繋げることができました。

イベントロガー(二次試作)

反射型三次元成型回路部品(MID)へのメタライズ配線プロセスの品質向上と工程の簡略化

京浜光膜工業株式会社、岩手大学、KISTEC電子技術部

 三次元成型回路部品(MID)はロボット、IoT、エレクトロニクス、ライフサイエンス等のさまざまな分野で小型化・高密度化・高性能化を実現させるために利用が期待されていますが、MIDの樹脂成型材料には高耐熱性、高周波特性などの性能向上を目的としてポリイミドや液晶ポリマーなどのスーパーエンジニアプラスチックが用いられる場合があります。MIDに回路形成するためには金属膜を形成する必要がありますが、このようなスーパーエンジニアプラスチック上に金属膜を形成する場合、膜の密着性が低いため十分な信頼性が確保できないという問題があります。

 本研究では、岩手大学が保有する分子接合技術を活用して、スパッタリング法によるスーパーエンジニアプラスチック上の金属膜の密着力を向上させる技術の開発と、MIDの量産化プロセスへの応用について取り組んでいます。2年目では基板前処理からメッキ工程までの構築を行い、分子接合技術を利用したスーパーエンジニアプラスチック上金属薄膜の形成プロセスの最適化を行いました。今後は明確化した課題の解決に取り組み、MID製造プロセスへの展開を進めていきます。

金属膜成膜前
金属膜成膜後(拡大)

金属膜密着性評価用MID試作サンプル

(三次元形状にも均一に成膜されている)

神奈川県産農林水産物の高付加価値化に資する美容効果の検証と化粧品開発

近代化学株式会社、早稲田大学、KISTEC化学技術部

 現代において、美容や健康に不安、悩みを持つ人は老若男女を問わず少なくありません。肌・頭髪の環境を健やかに整えることは、よりよい生活の質を保つために大切な要素です。
 そこで本研究では、県内農産物を有効活用して美容・健康の維持向上に着目した製品の開発を進めています。神奈川県産の農林水産資源やその内で廃棄処分となるものの中から、海老名市産イチゴ、イチゴのツル、綾瀬市産オリーブ実の搾油残渣、オリーブの葉などについて、皮膚バリア機能を高める効果、育毛補助効果、細胞を正常な状態に維持する効果を検討しました。
 KISTECにおいて いろいろな方法で成分を抽出、分画し、早稲田大学において、いくつかの画分で表皮角化細胞や毛乳頭細胞の増殖を促進する効果、オートファジー誘導活性を確認しました。特に海老名市産イチゴで、皮膚バリア機能を高める効果、育毛補助効果、細胞を正常な状態に維持する効果を確認しました。今後、そのメカニズム、エビデンスを明らかにしていきます。
 現時点での研究成果をもとに、近代化学株式会社において、ヘアケア、ボディケアの商品を開発し、展示会への出展、国内外での販売を行っています。

海老名市産のイチゴの果汁を配合した製品
(シャンプー、トリートメント、ボディソープ)
海老名市産のイチゴの果汁を配合した製品
(石けん)

耐腐食電極形成に向けた卑金属への炭化ケイ素コーテイング技術の開発

株式会社ジャパン・アドバンスト・ケミカルズ、愛知工業大学、KISTEC電子技術部

 地球温暖化の原因とされるCO2排出を抑制することが出来る新エネルギーとして水素ガスの利用が注目されています。水素ガスの課題としては電解プロセスで用いる電極表面の劣化とそれを抑制する為に用いられる素材がほぼ貴金属であるプラチナに限定され、非常に高価である点です。本研究開発ではこの課題を化学的に安定であり単純な工程で被覆可能な炭化ケイ素成膜技術を持つ(株)ジャパン・アドバンスト・ケミカルズの用途開発ニーズと、高い成膜技術を持つ愛知工業大学のシーズ、薄膜分析技術のKISTECが共同で事業化に取り組んでいます。
 初年度では様々な安価な卑金属上へのSiCコーティングを実施し、コーティング表面の観測を行いました。コーティングの表面形状は下地基板の元素及び温度に大きく依存することが分かりました。そのまた低抵抗化用のアルミニウムドーピングも行い、ドーピングによる成膜メカニズムへの影響が無く、低抵抗化の可能性を確認いたしました。

ドーピングによる抵抗値の変化

電子材料用途向け溶媒置換セルロースナノファイバー添加ソルダペーストの開発と品質評価

松尾ハンダ株式会社、富山大学、KISTEC電子技術部

 近年、電子機器の小型化、高性能化、高出力化に対応するため、電子機器の組み立てに使用するはんだ接合部についても微細化や高信頼性化など品質向上への要求が高まっています。ソルダペーストは表面実装部品などの微小な電子部品のはんだ付けには必須の材料であり、はんだ接合部の品質向上のためにはソルダペーストの性能向上が必要とされています。セルロースナノファイバー(CNF)は植物繊維を解きほぐすことによってナノサイズまで微細化した物質で、植物由来であるため環境負荷が小さくナノスケール効果による新たな機能を持った素材として注目されています。このCNFをソルダペーストに添加することによってペーストの流動性改善によるボイドの低減・外観形状の改善、はんだ内部の金属組織の微細化によるはんだ接合強度や信頼性の向上が期待されます。
 本研究ではCNFを添加したソルダペーストについて最適な添加量及び添加方法を見出し、はんだ接合部の接合強度向上、はんだ接合部のボイド低減、はんだ接合部の温度サイクル耐久性を向上させた製品の開発を目指しています。令和4年度はCNFの添加量を変えたソルダペーストの試作を行いペースト中の添加量を制御する生産技術を確立しました。今後は品質や信頼性などの観点から最適なCNFの添加量を見出し、量産化を目指して開発を進めていきます。

試作したはんだペースト

CFRP材料用切削工具の開発

日本電子工業株式会社、株式会社サンキワークス、KISTEC情報・生産技術部

 炭素繊維強化樹脂(CFRP)は軽量かつ高強度であることから、金属に代わる材料として航空機や自動車、産業機器などに適用されています。リサイクル技術の発展により今後更に広く普及していくものと想定されます。しかしながら、CFRPは硬質な炭素繊維を含むために切削加工時の工具摩耗が激しく、切削加工が困難な難削材です。そのため、CFRPの切削加工に適した工具の開発や加工技術の確立が求められています。
 本研究では、日本電子工業(株)のDLC成膜技術を研究シーズとして、KISTECで切削性能の基礎評価を、(株)サンキワークスで実際の生産現場における検証実験を行い、CFRPに適したDLC被覆工具の開発に取り組んでいます。これまでに、DLC膜の厚みや下地処理を変更した切削工具を試作し、CFRPの切削実験を実施しました。その結果、下地処理を工夫することでDLC膜の密着性を向上させ、工具摩耗の進行を抑制させることができることを見出しました。
 今後は、下地処理を改良してDLC膜の密着性をさらに向上させ、より工具摩耗の進行を抑えた切削工具の開発に取り組む予定です。

CFRP切削後のDLC被覆工具の刃先の様子

酒米のタンパク質含有率推定システムの開発

泉橋酒造株式会社、千葉大学、KISTEC化学技術部

 様々な産業において、ロボット・IoTを活用して生産性を高めることで競争力を向上することが求められています。農業や醸造の分野においても人手不足や事業継承の課題が指摘されており、ロボット・IoTの導入による農作業の負担の軽減、デジタル化の推進、データ解析による経験依存の解消を実現することが、課題解決に有効とされています。
 清酒造りにおいて、酒米に含まれるタンパク質はうま味などのもととなりますが、多すぎると雑味と感じてしまいます。酒米のタンパク質含有率は葉色など生育状況データと相関がありますが、広い圃場の生育状況をすべて見て回ることは難しいのが現状です。
 本研究ではドローンと画像解析技術を活用し、酒米の圃場の生育状況データの取得に取り組んでいます。従事者の作業量を大幅に低減できるとともに生育状況データの量・質を改善し、清酒造りに適した酒米を収穫できると期待しています。
 泉橋酒造(株)の圃場において酒米を栽培し、千葉大学とKISTECが圃場のドローン撮影と画像解析、酒米の成分分析を行いました。泉橋酒造(株)において、タンパク質含有率が大きく異なる酒米を原料として、それぞれ清酒を醸造し、味わいが異なることを確認しました。それらの清酒の試験販売を行い、好評を得ています。

酒米のタンパク質含有率マップ

ポリマーMEMS受託加工の事業化を目指した「ひずみMEMSセンサ」の試作開発

株式会社協同インターナショナル、早稲田大学、KISTEC機械・材料技術部、電子技術部

 シリコンウエハなどの基材の上に、電子回路やセンサ、機械的に動くアクチュエーターなどを作りこんだ微小電子機械システム部品(MEMS)はスマートフォンなど小型製品に広く利用されるようになりました。本研究では、早稲田大学 岩瀬研究室の有する延伸構造体の創製に関する研究シーズを応用して、(株)協同インターナショナルが、基材に薄いフィルムを用いたフレキシブルで曲面貼付が可能なひずみ(変形量)測定用のMEMSセンサの開発に取り組みます。このセンサは、変形の繰り返しに対する耐久性が必要となるため、KISTECは疲労試験機を用いて耐久性評価を担当し開発を支援します。
 各種の薄いフィルム基材の変形特性や引張強さを調査した上で、特性に優れた基材でセンサを試作し、まずは引張試験を実施しました。引張試験中はセンサ出力である電気抵抗値、及びデジタル画像相関法によるひずみ分布を測定しました。その結果、本センサ出力特性や、センサに大きな応力集中部がないこと、センサが断線するまでの限界ひずみなどがわかりました。この結果をもとに疲労試験条件を策定し、今後、本センサの耐久性を評価する予定です。