産学公連携事業化促進研究の結果概要(継続課題)

  1. 超長寿命形状記憶合金「ウルトラニチノール」の実用化に向けた熱処理工程開発
  2. ステンレス表面の改質が抗菌作用に与える影響の評価と事業化
  3. 極短深紫外ファイバーレーザーによる基板のマイクロ加工装置の研究開発
  4. 高速伝送用FPCの製造技術及び電磁ノイズ低減技術の研究開発
  5. 電解ミスト抑制法の開発
  6. 振動エネルギー流れ可視化技術を用いたIndustry4.0対応生産設備の研究
  7. 反射型三次元成型回路部品(MID)へのメタライズ配線プロセスの品質向上と工程の簡略化
  8. 神奈川県産農林水産物の高付加価値化に資する美容効果の検証と化粧品開発

超長寿命形状記憶合金「ウルトラニチノール」の実用化に向けた熱処理工程開発

東京工業大学、株式会社古河テクノマテリアル、KISTEC機械・材料技術部

 形状記憶合金には超弾性と形状記憶効果がありますが、実用合金はニチノールの超弾性を利用したものが大半であり、形状記憶効果については、疲労特性は優れるものの使用する変形量が小さいR相変態を利用した用途に限られています。これは、形状記憶効果の特徴であるマルテンサイト相変態を利用した場合、繰り返し使用することで機能劣化が起きやすいことに原因があります。東京工業大学が開発した「ウルトラニチノール」は、この機能劣化が起きにくい非常に高い耐久性を持つ合金で、実用化に向けて鍛造割れを防ぐための熱処理工程の開発が求められています。
 本研究では、東京工業大学のウルトラニチノールに関する研究シーズとKISTECの熱間加工・材料評価技術、国内形状記憶合金事業トップシェアの(株)古河テクノマテリアルの合金製造技術を活用し事業化に向けた熱処理工程開発を行っています。初年度はインゴットをスケールアップし準工業レベルのインゴットの作製に成功しました。2年目は熱処理条件を検討し、鍛造割れの原因となり得る析出物や銅の偏析が減少する熱処理条件を明らかにしました。次年度は実機での鍛造試験と熱間加工性試験を併用し、事業化に向けた熱間鍛造条件の最適化を行う予定です。

熱処理条件が組織変化に及ぼす影響 (①鋳造まま材、② 900℃1h熱処理材、 ③1000℃1h熱処理材、④1000℃10h熱処理材)
熱処理条件が組織変化に及ぼす影響
(①鋳造まま材、② 900℃1h熱処理材、 ③1000℃1h熱処理材、④1000℃10h熱処理材)

ステンレス表面の改質が抗菌作用に与える影響の評価と事業

株式会社サーフテクノロジー、関西大学、KISTEC研究開発部

 新型コロナウイルスの感染拡大による生活環境の急激な変化により、ウイルスや細菌の感染リスクを下げることが非常に重要な課題となっています。そのため、様々な抗菌・抗ウイルス加工品の研究開発や製品化に向けた取組が進められています。これらの性能を発揮するためには、何らかの無機・有機系の抗菌剤や抗ウイルス剤の塗布、練りこみ等による加工品が主になります。また、安全に使用できる薬剤として、食品や生物由来の抗菌・抗ウイルス剤の開発や利用も進められています。薬剤による感染制御は非常に有効な一方で、薬剤耐性菌の発生につながる可能性があり、社会的に大きな問題となることがあります。その点において、本研究では、マイクロディンプル処理(MD処理)を用いたステンレスの形状加工による抗菌加工品の効果と作用機序について検討を行い、安心・安全な抗菌加工品の製品開発とその事業化に向けて取り組んでいます。
 本研究では、その表面処理の状況と抗菌作用を深く検討することで、効率的な抗菌加工を発揮する製品開発とその事業化を目的に検討を行っています。
 初年度のMD処理による抗菌性能の確認に続き、今年度は新たに新型コロナウイルスに対する効果や抗菌性能を発揮するメカニズムについて検討を行いました。その結果、新型コロナウイルスに対しても一定の効果を認めました。また、抗菌効果について学術誌への発表なども行いました。今後の予定として、MD処理の条件を更に検討することにより、抗菌効果とともに高い抗ウイルス効果を得られる加工品の作製に向けて取り組みます。

抗菌・抗ウイルス効果を発揮するMD処理表面の状態
抗菌・抗ウイルス効果を発揮するMD処理表面の状態

極短深紫外ファイバーレーザーによる基板のマイクロ加工装置の研究開発

株式会社クォークテクノロジー、株式会社ファシリティ、KISTEC電子技術部

 レーザー加工の主流である近赤外域光では有機材料や微細加工には限界があり、今後は深紫外域レーザーの活用が期待されています。本研究では深紫外域レーザーを短パルス化することで加工精度や材料へのダメージ低減を目指しており、更にレーザー光源としてファイバーレーザーを用いることで小型化とナノ秒以下のパルス幅を実現するレーザーシステムの開発に取り組んでいます。
 本研究では(株)クォークテクノロジーがレーザー開発、(株)ファシリティがステッパーなどの駆動系の開発を進めています。
 これまで、ファイバーレーザー光源として1030nm、7ps、100MHzで4mWの出力が確認できていましたが、今年度はプリアンプの開発に取り組んだ結果、更なる出力の増幅に成功し300mWの出力を確認しました。その後、紫外線域にするため非線形光学結晶(LBO)を用いることで2逓倍波(515nm)での150mWの出力の確認ができました。

紫外化のための非線形光学結晶および温度制御
紫外化のための非線形光学結晶および温度制御

高速伝送用FPCの製造技術及び電磁ノイズ低減技術の研究開発

山下マテリアル株式会社、青山学院大学、KISTEC電子技術部

 高速伝送大容量化に向けてデータセンターなどの機器間を繋ぐ光トランシーバモジュールにも1配線当たり数G〜100Gbit/sの伝送を可能とする高速化が進んでおり、薄く屈曲性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC)にもそれに対応可能な性能が求められています。
 本研究では青山学院大学が持つ3次元電磁界シミュレーション技術とKISTECが持つ高周波測定技術を活用し、山下マテリアル(株)が高速伝送用FPCの製造技術の研究開発に取り組んでいます。今年度はFPCを光トランシーバモジュールへ搭載することを想定し、両面接点のカードエッジコネクタの篏合に対応した多層FPCを開発しました。FPC部分とリジット基板部を一体化した構造とすることで、接続点やビアの切り返し部分がなく、安定したインピーダンスを保つことが可能です。さらに、低伝送損失、薄型化可能なグラウンドスリット付きマイクロストリップライン構造の線路間の干渉を表すクロストーク特性についても期待した実験結果が得られました。今後はこれらの技術を合わせた製品化試作に取り組んでいきます。

カードエッジ端子FPC
カードエッジ端子FPC

電解ミスト抑制法の開発

合同会社アイル・MTT、旭産業株式会社、KISTEC化学技術部

 クロムめっきの工程では水の電気分解にともなって水素ガスや酸素ガスが発生します。そしてこれらのガスとともにめっき液が飛沫として同伴し、有害な6価クロムを含むミストがめっき槽から飛散します。6価クロムは鼻潰瘍、鼻中隔穿孔、気道障害、皮膚障害等の健康障害を引き起こし、ヒトに対して発がん性もあるため、作業環境上、何らかの対策が必要となります。
 本研究では、ミスト防止剤を用いてめっき液からミストを抑制できる手法を開発することを目的としました。これまでの研究により、クロムめっきの密着性に影響を与えず、安価で酸化分解されにくい界面活性剤をミスト防止剤として選択できました。この界面活性剤をめっき液に溶解させることで6価クロムのミストを抑制でき、作業環境測定の管理濃度である0.05mg/㎥未満にすることが可能となりました。

界面活性剤を添加した時の電解めっき
界面活性剤を添加した時の電解めっき

振動エネルギー流れ可視化技術を用いたIndustry4.0対応生産設備の研究

ネットワークアディションズ株式会社、神奈川大学、KISTEC電子技術部

 Industry4.0ではすべての生産設備装置を接続する通信回線で、高精度な時刻同期機能と通信帯域制御機能が必要となります。しかし、国内の生産工場では既存装置を本規格に準拠した装置に全て置き換えることはできません。そこで、既存装置に追加設置することでIndustry4.0に準拠したシステム構築を可能にするイベントロガーが求められています。
 本研究では、神奈川大学が研究開発を行っている振動エネルギー可視化技術をシーズ技術とし、ネットワークアディションズ(株)が持つ高精度時刻同期技術とKISTECが持つEMC評価技術を活用することにより、本イベントロガーの開発に取り組んでいます。今年度はハードウェアおよび内蔵するソフトウェアの基本機能部を研究開発し、イベントロガーとその動作検証用装置を試作しました。次年度以降はこの試作品を用いて生産設備での動作確認と事業化に向けた技術課題に取り組んでいくとともに、振動エネルギー流れ可視化システムの研究開発を推進していきます。

試作したイベントロガーと動作検証用装置
試作したイベントロガーと動作検証用装置

反射型三次元成型回路部品(MID)へのメタライズ配線プロセスの品質向上と工程の簡略化

京浜光膜工業株式会社、岩手大学、KISTEC電子技術部

 三次元成型回路部品(MID)はロボット、IoT、エレクトロ二クス、ライフサイエンス等の様々な分野で小型化・高密度化・高性能化を実現させるために利用が期待されていますが、MIDの樹脂成型材料には高耐熱性、高周波特性などの性能向上を目的としてポリイミドや液晶ポリマーなどのスーパーエンジニアリングプラスチックが用いられる場合があります。MIDに回路形成するためには金属膜を形成する必要がありますが、このようなスーパーエンジニアリングプラスチック上に金属膜を形成する場合、膜の密着性が低いため十分な信頼性が確保できないという問題があります。
 本研究では、岩手大学が保有する分子接合技術を活用して、スパッタリング法によるスーパーエンジニアリングプラスチック上の金属膜の密着力を向上させる技術の開発と、MIDの量産化プロセスへの応用について取り組んでいます。初年度は分子接合材を用いてMID評価サンプルに形成したスパッタリング法による銅薄膜の密着力について定量的な評価を行うための試験方法について検証を行いました。今後は分子接合技術を利用したスーパーエンジニアリングプラスチック上での金属薄膜形成プロセスの最適化を行い、さらに量産化を見据えたMID製造プロセスへの適用を目指して開発を進めていきます。

金属膜成膜前
金属膜成膜前
金属膜成膜後
金属膜成膜後

金属膜密着性評価用MID試作サンプル

神奈川県産農林水産物の高付加価値化に資する美容効果の検証と化粧品開発

近代化学株式会社、早稲田大学、KISTEC化学技術部

 消費者の美容や健康に関する意識が高まり、それに応える美容・健康関連製品が望まれています。近年はそのような製品の科学的根拠(エビデンス)や「地産地消」、「エコロジカル」といった取組が企業に求められています。
 本研究では、近代化学株式会社が神奈川県の農林水産資源を活用した美容・健康関連製品を開発、事業化するに当たり、早稲田大学の美容効果の科学的評価法に関する研究シーズとKISTECの成分抽出・分析技術を活用しています。
 初年度に当たる今年度は、海老名市産イチゴを用い、水抽出した成分で育毛補助効果が観察されました。今後は、有効成分の特定や作用機序の解明を進めてエビデンスを構築すること、及び未利用の農林水産資源の機能性探索に取り組みます。

いちごの水抽出画分の毛乳頭細胞増殖促進効果
いちごの水抽出画分の毛乳頭細胞増殖促進効果