光触媒性能評価:簡便・迅速なスクリーニング手法の開発|KISTEC NEWS online #2
川崎技術支援部 光機能評価グループ
研究員 濱田 健吾
光触媒の性能試験には、専門的な試験環境や分析装置が必要であり、これは製品開発の障壁となっています。
本研究は、空気浄化性能試験の簡便且つ迅速なスクリーニング法として、
①レサズリンインク試験、②蛍光プローブによるOHラジカル測定を検証しました。
両手法は、空気浄化性能試験と高い相関を示し、代替評価法としての活用が期待されます。
特に①ではインクの改良により、高性能な試料片においても評価が可能になりました。
目次
KISTEC NEWS online #2|vol.32(2025年7月発行) 研究紹介
研究内容・成果
光触媒は、空気清浄機や抗菌・抗ウイルス製品、建材など、生活環境の改善に広く応用されています。しかし、その性能評価には専門的な試験環境や高価な分析装置が必要で、新規材料の開発や品質管理における大きな課題となっています。この課題を解決するため、KISTECでは、光触媒試料の空気浄化性能を簡便かつ迅速に評価する新しい手法を開発しました。本研究では、標準試料として膜厚の異なるTiO2薄膜(70 nm~1800 nm)を作製し、これらの性能を従来のアセトアルデヒド分解試験、改良型レサズリン(Rz)インク試験、蛍光プローブ法によるOHラジカル量測定の3つの方法で評価しました(図1)。
特筆すべき成果は、「Rzインク試験の適用範囲の拡大」です。従来法では、高性能な光触媒試料の評価においてRzインクの色変化は極めて速く、定量化が困難でした。そこで、指示薬であるRzインクの組成を変え、pHをアルカリ性に調節することで、反応速度を制御(遅く)し安定した計測が可能になりました(図2)。改良型Rzインクの色変化速度とアセトアルデヒド分解速度の間には、強い正の相関が確認され(図3(a))、この手法がアセトアルデヒドガスを用いた空気浄化性能試験の代替評価法として活用できることが明らかになりました。
さらに、テレフタル酸二ナトリウムを用いた蛍光プローブ法によるOHラジカル量測定においても、アセトアルデヒド分解速度との間に強い正の相関が確認されました(図3(b))。この結果は、OHラジカルが光触媒による有機物分解の主要な活性酸素種であることを裏付けるものです。
光触媒の性能評価に要する時間は大幅に短縮され、改良Rzインク法では約5分、蛍光プローブ法では約1時間で評価が完了します。これは従来のガス分解試験(数時間~1日)と比較して、評価に要する時間を劇的に短縮するものです。本研究の成果により、光触媒材料の開発現場において、専門的な分析装置なしでも迅速な性能スクリーニングが可能となり、材料・製品開発サイクルの短縮と効率化が期待されます。
研究内容・成果研究・開発で苦労した点
最も苦労した点は、高性能な光触媒試料に適用可能なRzインクの開発でした。従来のRzインクは、高性能材料において反応が速すぎて定量的な評価が困難でした(図2(a))。そこでpHを調節することで反応速度を制御する手法を開発しましたが、最適なpH条件を見出すまでに多くの実験を重ねました。また、蛍光プローブ法によるOHラジカル量のモニタリングは現在も改良中であり、実験では1時間後の蛍光強度データ(1点計測)を使用しています。今後、連続的なOHラジカル生成量の測定や、より短時間での評価を可能にする手法の開発を進める予定です。
研究・開発の成果がどのような分野で役立つ可能性があるか
本研究で開発した評価手法は、以下の分野での貢献が期待されます。
特に、COVID-19パンデミック以降、室内環境の清浄化に対する関心が高まっており、抗ウイルス・抗菌機能を持つ光触媒製品の開発が活発化しています。本評価法は、これらの製品開発を加速させるツールとなることが期待されます。皆様からのご相談やお問合せをお待ちしております。
論文および国際学会発表実績(受賞歴も含む)
- ”実験の自動化・自律化によるR&Dの効率化と運用方法”, 技術情報協会, 2023
- ”Modified Resazurin Ink Testing and the Fluorescence Probe Method for Simple and Rapid Photocatalytic Performance Evaluation”, catalysts, 2025 (外部サイトへリンクします)
用語解説
- 光触媒:光を当てると水や有機物を分解したり、表面が超親水化するなどの作用を示す物質です。酸化チタン(TiO2)が最も広く使われており、外壁や窓ガラスに施工されたり、大気や水質浄化用のフィルターなどに応用されています。
- レサズリンインク試験:2018年にISOで規格化された光触媒性能試験です。光触媒由来で生じるインク塗膜の色変化を定量することで、試料のセルフクリーニング性能を評価できます。ISO21066では、色変化の観測のためにスキャナーやデジタルカメラを使用することになっています。
KISTEC NEWS online #2|vol.32(2025年7月発行) 研究紹介
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