貼るだけ人工膵臓グループ

まつもとあきら先生の顔写真

糖尿病に対するインスリン治療においては、長期的な血糖管理、低血糖の回避、患者に及ぼす身体的・心理的負担などの多くの課題(アンメットメディカルニーズ)があります。本グループでは、これらの課題解決に貢献する技術として、生体由来材料や機械を一切用いない水溶性高分子ゲルによる自律型のインスリン供給機構とマイクロニードルパッチを融合することによる「貼るだけ人工膵臓」の開発に取り組んでいます。

本グループは、2018年度~2022年度まで、文部科学省地域イノベーション・エコシステム形成プログラム 神奈川発「ヘルスケア・ニューフロンティア」先導プロジェクト の事業化プロジェクトⅠ「貼るだけで自律型の次世代人工膵臓の開発」としても研究を進めました。

期間

  • (戦略的研究シーズ育成事業)「貼るだけ人工膵臓の開発」 2017年4月~2019年3月
  • (有望シーズ展開事業)「貼るだけ人工膵臓」プロジェクト 2019年4月~2023年3月
  • (実用化実証事業)「貼るだけ人工膵臓」グループ 2023年4月~

実施場所

東京医科歯科大学 駿河台キャンパス

研究概要

糖尿病は様々な合併症を引き起こすため、医療費の増大や健康寿命の短縮、さらには疾病による労働力の逸失など、社会に大きな影響を及ぼします。現在のインスリン治療は、血糖値をモニタリングしながら体重や摂取・消費カロリーを考慮した投薬が必要です。糖尿病はインスリンの作用不足に起因するため、インスリン療法は治療法の中でも重要な位置を占めています。

一方、インスリン療法は投与量調整の難しさ、費用負担の大きさなど多くの課題が存在し、患者や介護者の生活の質を著しく損なってしまいます。まもなく超高齢社会に突入する日本では、予防医学や医療費の抑制といった観点からも、長期的かつ厳格な血糖コントロールが必要とされており、簡便で安全な新技術が望まれています。
 本プロジェクトではボロン酸ゲルを活用し、「機械不要、1週間連続使用可能」で血糖値に応じてインスリンを自動投与可能な、低侵襲性のマイクロニードル型インスリンパッチの開発を目指しています。

研究内容

1. フェニルボロン酸含有ゲルによる血糖コントロール

グルコースと可逆的に結合するフェニルボロン酸(PBA)をある種の高分子ゲルネットワーク中に適当な割合で共有結合的に導入すると、グルコース濃度に応答して、高いグルコース濃度ではゲルの膨潤が、低いグルコース濃度ではゲルの収縮が生じ、収縮したゲル表面には「スキン層」と呼ばれる薄い脱水収縮層の壁が形成されます。この現象により、インスリンを内包するPBA含有ゲルでは、高いグルコース濃度では広がったゲルの網目構造からインスリンを拡散し、低いグルコース濃度ではスキン層の形成によりインスリンの拡散が妨げられます。

2.  マイクロニードルパッチの材料開発

マイクロニードルパッチの実用開発に向けた材料開発を行っています。マイクロニードル内でゲルが最適に作用するための濃度や温度などの条件、洗浄方法や製造プロセスの検討、シルクフィブローインなどの高機能材料との組み合わせ等を検討し、様々なニードルサイズや数、形状のパッチを開発しています。

マイクロニードルパッチの写真

3. マイクロニードルパッチの機能評価

試作したマイクロニードルパッチについて、力学的強度、生体適合性、生分解性などの観点から、マウスやラット、ブタなどの中小動物モデルを用いて機能評価を行います。安全、安心で安価な「貼るだけ人工膵臓」を実現するべく、臨床に向けた機能評価を進めていきます。

マイクロニードルパッチを拡大した写真

研究員一覧 (氏名 /職制/ 専門分野/ 本務所属機関)

  • 松元 亮 /グループリーダー /材料学、高分子材料学/ 東京医科歯科大学
  • 菅波 孝祥 /サブリーダー /免疫代謝学/ 東海国立大学機構名古屋大学
  • 伊藤 美智子 /サブリーダー /内分泌代謝学