光スイッチ医療創出プロジェクト

さとうもりとし先生の顔写真

光スイッチ医療創出プロジェクトでは、 今まで治療法がなかった難病(遺伝子疾患)やがんの治療のための遺伝子医薬、細胞医薬、抗体医薬に独自の光スイッチ技術を導入することで、 有効性と安全性を大幅に高めた新たな医療技術を開発し、これからの医療の新たなプラットフォーマーとなることを目指します。

期間

  • (戦略的研究シーズ育成事業)「光操作に基づく医療技術の創出」 2020年4月~2022年3月
  • (有望シーズ展開事業)「光スイッチ医療創出」プロジェクト 2022年4月~

実施場所

かながわサイエンスパーク(KSP)東棟 

神奈川県川崎市高津区坂戸

研究概要

 医薬品として利用される物質(化合物や抗体など)や細胞は、いったん体の中に入ると、その働きをコントロールするのが極めて困難になります。このことが、治療効果が高く副作用が低い医薬品を開発する上での技術的ハードルとなってきました。例えば、一般的な抗がん剤は、がん組織だけでなく、体の中を循環して正常組織にも作用してしまうことを前提として、治療効果と副作用のバランスを取るように開発されています。もし、がん組織を狙って治療効果を発動できるようになれば、正常組織での副作用を考慮する必要がなくなるため、さらに治療効果を高めるアイディアを導入して、がん治療の効率と安全性を大幅に高めることが可能になります。遺伝子治療についても、ゲノム編集に利用されるCRISPR-Casシステムは標的の塩基配列の編集が終わってもDNA切断活性が持続するため、時間の経過とともに、標的ではない塩基配列も切断して編集してしまいます。このことが、同技術の治療応用でのボトルネックとなっています。もしCRISPR-Casシステムを制御できるようになれば、ゲノム編集の精度と遺伝子治療の安全性を大幅に高めることが可能になります。
 本プロジェクトでは、乗用車に取り付けられたアクセルやブレーキのように、体の中のタンパク質の働きを自由自在に光でコントロールするための技術を開発し、これを遺伝子医薬や細胞医薬、抗体医薬と組み合わせて新たな光スイッチ医療を創出します。光スイッチ医療は従来の概念を根本から変え、有効性と安全性が高い医療を提供できると考えています。

研究内容

1. 光スイッチタンパク質

 光スイッチ医療を創出する上で鍵となるのは、光照射のON・OFFで結合・解離をコントロールできるタンパク質(光スイッチタンパク質、図1)です。私たちは先行研究で青色光や赤色光、近赤外光でそれぞれコントロール可能な光スイッチタンパク質を開発してきました。特に赤色光や近赤外光は生体組織透過性が非常に高いので、生体深部でのコントロールに有利です。光スイッチタンパク質を用いることで、さまざまなタンパク質の働きを自在にコントロールできるため(図1)、光スイッチ医療を実現するための基盤技術と位置付けています。本プロジェクトでは光スイッチタンパク質のさらなる改良を行います。

図1 プロジェクトの概要図

2. 光スイッチ遺伝子医薬

 生体組織に光を照射して遺伝子(DNA)の塩基配列を正確かつ安全に書き換えることができるようになれば、今まで治療法がなかった様々な難病(遺伝子疾患)の治療に大きく貢献できると考え、CRISPR-Casシステムに光スイッチタンパク質を導入した光スイッチ遺伝子医薬を開発します(図1)。さらに、光照射のON・OFFで遺伝子の発現を自在にコントロールできる光スイッチ遺伝子医薬を開発します(図2および図3)。これにより、生体組織の再生を生体内で安全に行えるようになるなど、光スイッチ技術に基づく新たな医療の開拓が可能になります。

図2 CRISPR-Casシステムを用いた光スイッチ遺伝子医薬
図3 マウスに光スイッチ遺伝子医薬を導入し光照射を施すことで(a)、生体(例、肝臓)での遺伝子発現をコントロール(b、C)

3. 光スイッチ細胞医薬・抗体医薬

 遺伝子医薬に加えて、光スイッチタンパク質を導入した細胞医薬や抗体医薬の開発を行います。光でコントロール可能な光スイッチ細胞医薬や光スイッチ抗体医薬の開発により、有効性と安全性を大幅に高めた新たながん治療を目指します。

研究員一覧 (氏名 /職制/ 専門分野/ 本務所属機関)

  • 佐藤 守俊 /プロジェクトリーダー / 東京大学
  • 中嶋 隆浩/ 常勤研究員
  • 小田部 尭広/ 常勤研究員