【プレスリリース】“昆虫細胞”を用いた匂いセンサの感度を向上
~微小カプセルを使い、単独では増えにくい昆虫細胞の培養、選別に成功~
【ポイント】
- 昆虫の嗅覚受容体を組み込んだ「センサ細胞」を、微小カプセルの中で1個または小数ずつ隔離して増やす手法を開発
- 周囲の細胞から栄養などを受け取れるカプセルの特性により、細胞同士は隔離したまま、単独では増えにくい昆虫細胞の増殖に成功
- 選び出した細胞は、がん関連物質候補に対する検出感度が緩衝液中で約3.1倍、ヒト尿中に添加した試料で約2.4倍に向上
- センサ細胞を培養・選抜することで、嗅覚受容体の種類や測定装置を変更せずに、匂いセンサの検出感度を向上できることを実証
【概要】
東京大学大学院情報理工学系研究科の西本和生 特任研究員、竹内昌治 教授(神奈川県立産業技術総合研究所人工細胞膜システムグループ グループリーダー、東京大学生産技術研究所学内クロスアポイントメント特任教授)、神奈川県立産業技術総合研究所の三村久敏 研究員、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のディノ・ディ・カルロ 教授(東京大学 EXPERT-GRI 推進室 特任教授)らの研究グループは、微小カプセルを用いて、単独では増えにくい昆虫のセンサ細胞を1個または少数ずつ隔離して増やし、匂い物質への反応が強い細胞系統を選び出す技術を開発しました。選び出した細胞は、ヒト尿中に添加したがん関連物質候補に対する検出感度が約2.4倍に向上しました。
嗅覚受容体を組み込んだ培養細胞を検出素子として利用する「バイオハイブリッド匂いセンサ」の研究が進められています。尿や呼気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)の一部は、がんなどの疾患のバイオマーカー候補として報告されています。しかし、同じ遺伝子を導入しても、匂い物質に対する反応の強さは細胞ごとに異なり、反応の弱い細胞が混ざると、センサの感度が低下する一因になると考えられます。反応の強い細胞を選び出して増やせば感度向上が期待できますが、多くの昆虫細胞は周囲の細胞が分泌する物質に依存して増殖するため、1個ずつ分離すると増えにくいという問題がありました。
研究グループは今回、微小カプセルの中にセンサ細胞をほぼ1個ずつ閉じ込め、カプセルの外に同じセンサ細胞を加えて一緒に培養しました。殻が栄養や細胞が分泌する物質を通すため、閉じ込めた細胞は周囲の細胞と物理的には隔てられたまま増殖し、細胞の集団(コロニー)を形成しました。こうして得た8つの細胞系統(派生株)を比べたところ、1つの系統が他を上回る反応を示しました。この派生株は、市販のヒト尿にがん関連物質候補(アセトフェノン)を添加した試料で、元の細胞の約2.4倍の感度を示し、検出限界は1.56 μMから0.93 μMへと低下しました。 本手法は、センサの構造や測定装置を変えずに、細胞そのものを選び直すことで性能の向上を図るもので、将来、高性能な匂いセンサにつながる可能性があります。(詳細は添付資料参照)
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP21H05013)、科学技術振興機構(JST)先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)(JPMJAP2507)の支援を受けて実施されました。
本研究成果は、2026/10/23にエルゼビア社の学術誌「Biosensors and Bioelectronics」にオンライン掲載されました
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