再生可能資源由来の糖アルコール潤滑技術の開発|KISTEC NEWS online#5

機械・材料技術部 材料物性グループ
吉田 健太郎

産業用機械やEV・HV 等の次世代型輸送機械の潤滑油においては、SDGs 達成の観点から環境性能の向上が求められています。本研究は、そのような観点から生分解性の高い糖アルコールを用いた潤滑技術の開発を目的としました。糖アルコール水溶液を用いたダイヤモンドライクカーボン(DLC) (※ 3) 膜の低摩擦摩耗特性が発現する条件や組合せを見出すとともに、低摩擦摩耗特性に与える影響について、しゅう動表面に生成する化学反応膜の状態から推察しました。

目次

KISTEC NEWS online #5|vol.34(2025年12月発行) 特集


Q. この研究開発におけるKISTECの役割はどのようなものですか?

トライボロジー(※4)は省エネルギー技術の重要な要素のため、環境対応にメリットがある糖アルコール水溶液を用いた低摩擦潤滑油の開発が始まっており、今後の発展が期待される技術である一方で、その低摩擦のメカニズムは未だ十分に解明されていません。KISTEC ではこの技術について科学的なエビデンスをとらえつつ、先行研究を追い抜く成果を目指し、研究成果を活用した外部連携を進めて、実用化に貢献します。

Q. 研究開発内容・進捗状況、現段階での成果について教えて下さい。

糖アルコールであるキシリトール(※5)の水溶液を用いて、基材であるSUJ2(※6)上に成膜した各種DLC膜との摩擦試験(図1)を実施し,摩耗状況および摩擦特性の関係について明らかにしました。キシリトール水溶液潤滑下の水素含有DLC(a-C:H)膜および水素フリーDLC(ta-C)膜では、未コート鋼に比べて摩耗幅が小さく摩耗が抑制されていました(図2)。摩擦特性については、概ねta-C膜に摩擦低減効果があることが確認されました(図3)。ta-C膜の最表面は炭素数5のキシリトールに比べて高炭素数の物質が増加していた(図4)ことから、出発原料よりも高分子化した炭素系の化学反応膜が最表面に形成され、摩擦を低減した可能性が示唆されます。 以上の内容については学会で成果を公表しています。
(関連:図1~4)

Q. 研究開発成果はどのように活用されますか?今後の展開も教えて下さい。

キシリトールはもとより他の一部の糖アルコールについても、従来使用されているEV 用ギア油と比較して同等以上の摩擦摩耗特性が得られた結果もあり、糖アルコールが近い将来に潤滑剤として使用できる可能性が示されました。糖アルコールはすでにワイヤソー加工における水性加工液として実績もあり、近い将来、自動車・加工分野等に代表される工業材料をターゲットにした、「コーティング」+「潤滑」での低摩擦性、耐摩耗性への要求に応えることも夢ではありません。従来の石油系潤滑剤の代替技術のみならず、フッ素系コーティング等の人体への影響が懸念される医療・食品分野への適用も考えられます。

本技術普及のための課題として、社会的側面と技術的側面があります。前者はEU 等と比較した環境配慮型アプローチへの国内対応の遅れがあり、学協会活動等を通じて引き続き必要性をアピールしてまいります。後者は摩擦部最表面における現象を正確に捉えることが非常に難しいことがあり、大学や研究機関との連携を模索します。KISTEC におきましても、未評価の糖アルコールについて評価を実施し、技術的成果蓄積に努めるとともに、摩擦表面では実際にはどんな現象が起こっているのかを明らかにするため、トライボ化学反応(※7)過程や摩擦後の化学結合状態を推察するシミュレーションについて有識者と検討する予定です。

用語解説

  • ※ 1  再生可能資源 自然のプロセスによって、人間が消費する速度以上に補充される天然資源。
  • ※ 2  糖アルコール 糖質のカルボニル基(− C(=O)−)を還元して作られる糖質の総称。
  • ※ 3  ダイヤモンドライクカーボン ダイヤモンドに似た特性を持つ非晶質の炭素膜。
  • ※ 4  トライボロジー 摩擦、摩耗、潤滑等、相対運動する表面間の現象を対象とする科学技術分野。
  • ※ 5  キシリトール 化学式 C5H12O5 で表される、キシロースから合成される糖アルコールの一種。
  • ※ 6  SUJ2 JIS(日本産業規格)で規定された高炭素クロム軸受鋼の代表的な鋼種。
  • ※ 7  トライボ化学反応 摩擦や摩耗が生じる界面で起こる化学反応。

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