生成AIを活かしたものづくり支援の試み|online#6
情報・生産技術部 システム技術グループ 千家 雅之 奥田 誠
加工評価グループ 中島 岳彦
生成AI活用促進事業の一環として、生成AIをものづくり現場に応用する可能性を探るため、3D CADモデルの作成、既存のIoTシステムの改修、社内文書を対象とした質疑応答システムの構築に取り組んでいます。生成AI技術の急速な進化や日本語対応の課題に直面しながらも、実用化に向けた知見を蓄積しています。
目次
KISTEC NEWS online #6|vol.34(2025年12月発行) 研究紹介
研究内容・成果
現在、生成AIは、メール作成や文章の要約といった日常的な業務の効率化をはじめ、画像や動画などのコンテンツ制作、さらにはソフトウェア開発におけるプログラミング支援など、さまざまな分野で活用が進んでいます。一方で、製造分野における生成AIの活用事例はまだ多くありません。その背景には、既存の生成AIは製造業で求められる専門知識が不足しており、それを補う必要があることや、既存のワークフローにAIを組み込むための技術的・運用的な工夫が必要であることが、導入の障壁となっていると考えられます。
KISTECでは令和6年度より生成AI活用促進事業を開始し、その概要についてはKISTEC NEWS Vol. 28にて紹介しました。この事業の一環として、KISTECでは、生成AIのものづくり現場への適用可能性について検討を進めています。本稿では、その取り組みの中から、3D CADモデルの作成、家具試験機を例としたIoTシステムの改修、及び社内文書を対象とした質疑応答システムの構築について紹介します。
一つ目は3D CADモデリング未経験者を対象とした事例です。3D CADモデリングはモデリングソフトのライセンス費用や習得時間が課題になります。そこで、外形や寸法が決まっていて強度や寸法精度を問わないという前提で、生成AIサービスと自作アプリを用いて3D CADモデルの作成が実現できるかを確認しました。図1で示すように、生成AIサービスでは単純形状しか生成できないため、自作アプリでは、単純形状モデルを結合・型抜き・重なり抽出を行い、複雑形状に再構成します。この一連の手順でモデリングソフトを使用せずに3D CADモデルの作成が可能であることを確認できました。
二つ目は、生成AIサービスを用いて、非IT技術者がIoTシステム開発に挑戦する取り組みです。本取り組みでは、初心者でも分かりやすい文章で受け答えができるようにカスタマイズした生成AIサービスを用意しました。図2のように、家具試験機モニタリングシステムは、家具の耐久性などを試験する家具試験機を監視するIoTシステムであり、Raspberry Piと家具試験機が接続され、Webブラウザ上に試験映像やカウンター等が表示されるシステムで、KISTECの家具試験で実際に使用しています。生成AIに繰り返し質問を行うことで、非IT技術者でも既存システムに家具の移動量データの取得機能を追加することができました。この取り組みを通じて、IoTシステム開発では、内容理解や疑問点を文章で正確に伝えることも重要であると同時に、回路接続図やデータフロー図、開発中のWeb画面などの視覚情報を併せて提示することで、より正確で効率的な開発に寄与することが分かりました。
三つ目の取り組みは、ものづくりの過程で作成される機密性の高い社内文書を対象とする質疑応答システムの構築に向けたもので、社内等のローカル環境で動作する生成AI(ローカル生成AI)を活用する取り組みです。クラウド型生成AIサービスでは、インターネットを経由するため情報流出や生成AIモデルの学習への利用といった懸念がありますが、ローカル生成AIは社内等で稼働するため、そうした懸念を回避できる可能性があります。KISTECでは、RAG(※1)を用いた社内向け質疑応答システムの試作を行いました。具体的には、図3に示すように、元の文書からナレッジベースを構築し、生成AIがナレッジベースの検索結果を根拠として回答を生成する仕組みをLlamaIndex等のOSS(※2)を用いて構築しました。人手による評価では約8割の正答率を得ましたが、現時点では厳密な正確性が求められる用途には課題が残ります。図表の多い文書にも対応するため、最新のVision RAGを用いた社内向け質疑応答システムの構築を目指しています。
研究・開発で苦労した点
生成AIサービスの活用とローカル生成AIシステムの構築という2つの方向からものづくり現場への適用を模索していますが、AIモデルだけでなく関連ソフトウェアも急速に発展しているため、実際の業務への展開には、長期間の安定した運用という面で課題が残されています。特に後者では、OSSを活用して構築しているため、頻繁な仕様変更や日本語対応には動作検証が必要です。こうした課題に対して、実用性を高めるための継続的な取り組みを進めています。
研究・開発の成果がどのような分野で役立つ可能性があるか
本取り組みを通じて得られた知見は、生成AIを活用した業務支援や設計支援の一助になる可能性があります。生成AIサービスのカスタマイズやローカル生成AIシステムの構築に関するノウハウは、生成AIの導入を検討している企業での概念実証等で活用されることが期待されます。特に、ローカル生成AIシステムの構築に関する知見は、情報セキュリティの観点から生成AIの導入を見送っていた企業にとって、検討材料になる可能性があります。このような概念実証を通じて、生成AI技術のものづくり現場への適用が進んでいくものと考えます。
用語解説
- ※ 1. RAG (Retrieval-Augmented Generation)
外部データベースから関連情報を検索し、生成AIの回答に統合する技術。これにより、生成AIは、モデル自体を変更することなく、最新のデータや専門知識をもとに回答を生成できるようになる。 - ※2. OSS (Open Source Software)
ソースコードが公開され、ライセンス条件の範囲内で利用・改変・再配布が認められるソフトウェア。開発の自由度やコスト削減などの利点がある一方、ライセンス条件を遵守しない場合、契約違反や著作権侵害に該当する可能性があるため注意が必要。
KISTEC NEWS online #6|vol.34(2025年12月発行) 研究紹介
設備ナビ・技術部紹介・インフォメーションの記事内容は刊行物のPDF資料にてご覧いただけます。
- 設備ナビ:超音波映像装置
- 技術部紹介:音響材料の開発・評価支援-音響特性予測ソフトウェアの活用-
- インフォメーション:テクニカルショウヨコハマ2026出展のご案内/研修・教育講座のご案内
記事内でご紹介の情報は、以下ボタンよりご覧いただけます。
『KISTEC NEWS online』について
企画部 情報戦略課 連携広報グループ
TEL:046-236-1500(代表)
掲載している研究・技術等について
情報・生産技術部
「技術相談はこちら」のボタンからご連絡ください。
ご相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。





