線虫や細胞を用いた食品機能性評価|online#8
化学技術部 環境安全・バイオグループ
瀬戸山 央
近年、健康寿命の延伸や未病改善を背景として、食品の栄養補給( 1 次機能)、美味しさ( 2 次機能)に加え3 次機能として体調調節や疾病予防など健康維持・増進に働く生理機能がより一層注目されています。食品の3 次機能の科学的評価のためには生物による試験が欠かせませんが、哺乳動物を用いた試験は倫理面やコスト面で容易ではありません。KISTECでは、食品の3 次機能を簡便に評価するため、ヒトのモデル生物である線虫や、細胞を用いた試験を行っています。
目次
KISTEC NEWS online #8|vol.35(2026年3月発行) 研究紹介
研究内容・成果
現在KISTEC では、ヒトの実験モデル生物である線虫(Caenorhabditis elegans)と、神経モデル細胞であるPC12細胞を用いた食品の機能性(3次機能)評価を行っています。線虫は体長約1mm の線形微小生物で、ヒトを含む哺乳動物とは全く異なる見た目ですが、ヒトとの遺伝的相同性※があることからヒトの老化研究のモデルとして研究に広く用いられています(写真1)。
PC12細胞はラット由来の神経モデル細胞であり、神経細胞分化や神経変性疾患の研究に広く用いられています(写真2)。私たちはこれらの線虫と細胞を用いて、未利用の食品資源の1つとして摘果された未成熟ミカンを選定し、機能性評価を行いましたので、その内容をご紹介します。
柑橘の栽培において、未成熟な果実を間引く作業である摘果は必要な作業です。摘果されたミカンは通常廃棄されてしまいますが、未成熟ミカンには成熟ミカンよりフラボノイドなど機能性成分が多く含まれていることが知られています。そこで私たちは未成熟な摘果ミカンの機能性として抗酸化性に注目し実験を行いました。
PC12細胞に摘果ミカン果皮抽出液を処理し、その後過酸化水素(H2O2)による酸化ストレス負荷をかけた場合、摘果ミカン果皮抽出液を処理したほうが無処理よりも細胞生存率の低下を抑えられることが明らかとなりました(図1)。さらに線虫に摘果ミカン果皮抽出液を処理した場合、線虫体内で発生する活性酸素(ROS)の生成量が無処理に比べて低下することが明らかとなりました(図2)。
これらのことから、線虫や神経細胞を用いることで摘果ミカン果皮が生体に対して抗酸化作用を発揮することが明らかとなりました。
研究・開発で苦労している点
線虫や細胞は生きているため、適切に管理する必要があります。例えば、線虫や細胞の培養中に雑菌やカビなどが混入してしまうと培養が失敗して死んでしまいます。また線虫や細胞が増えるための栄養素(餌)の量も適切に管理する必要があり、2~3日毎に必ず様子を見なくてはいけません。そのため、年末年始など長期休暇前は培養スケジュールを調整するなどの準備が必要です。生き物を扱うという点で、これらを考慮することに苦労しています。
研究・開発の成果がどのような分野で役立つ可能性があるか
線虫を用いた場合は抗老化作用評価、PC12細胞を用いた場合は神経の保護作用評価をすることが可能です。現在の高齢化社会では、健康寿命を重視し健康な状態で老いることが重要であるとされています。そのため、食品などによる抗老化作用や老化に伴う神経炎症を予防する神経保護作用は、これからますます重要になってくると考えています。
用語解説
- 遺伝的相同性
異なる生物種間で遺伝子やDNA 配列が、共通の祖先に由来する類似性を持つこと。構造や機能に類似性があることが多い。
論文および国際学会発表実績
摘果ウンシュウミカンの抗酸化性および抗糖化性、食生活研究、Vol.45 No.6( 2025)
研究員について
Q. これまでの経歴を教えてください。
大学院修了後、KISTECの前身、神奈川県産業技術センターへ配属後、現在に至る。その間、博士(農学)を取得。食品科学、食品機能性の分野に約15年従事。
Q. なぜ今の分野の研究をしているのですか?
植物が人の生活を支えていると考えています。そのため植物に関わる仕事がしたいと考え、少しでも関われる食品・バイオの分野を選び研究を行っています。
Q. 好きなこと、休日にしていることを教えてください。
観葉植物栽培、園芸全般、生き物飼育、ビール、コーヒー。
KISTEC NEWS online #8|vol.35(2026年3月発行) 研究紹介
設備ナビ・技術部紹介・インフォメーションの記事内容は刊行物のPDF資料にてご覧いただけます。
- 設備ナビ:走査型プローブ顕微鏡
- 技術部紹介:高集積化デバイスの” 熱” 問題を解決するマルチスケール熱伝導率評価支援の開始
- インフォメーション:見て、歩いて、聞いてみよう! KISTEC 施設公開デー 2026/第40回「神奈川工業技術開発大賞」受賞技術・製品が決定しました / 研修・教育講座のご案内
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