セラミックスの「物語」を観測して、プロセス因子の因果を紐解く|KISTEC NEWS online #18

機械・材料技術部 材料物性グループ 高橋 拓実

セラミックスの構造は、機能性や信頼性と密接に関係し、原料だけでなく製造プロセスによっても大きく変化します。言い換えれば、セラミックスの構造には「何を原料に、どのようなプロセスを経て製造されたのか?」という物語が刻まれています。本稿では、これまで直接観測することが困難であったその「物語」を可視化する技術と、それに基づいて、構造形成と複雑に絡み合うプロセス因子との因果関係を紐解く研究事例を紹介します。

目次

KISTEC NEWS online #18|vol.37(2026年9月発行) 研究紹介

研究内容・成果

図1 は、Al2O3 セラミックス断面のSEM 像です。数マイクロメートルの結晶粒や気孔に加え、結晶粒数個分の大きさをもつ空隙が観察されます。一方、図2 は同じ試料の透過光学顕微鏡像であり、暗い領域はアルミナとの屈折率差によって光を散乱する光学的不均質構造を示しています。さらに、環状に配列した「顆粒痕」も観察され、その大きさや形状から原料粉体や成形方法を推測することができます。このように、異なるスケール・観察手法を組み合わせることで、セラミックスの「物語」の一端を読み解くことが可能です。しかし、それらは製造プロセスが残した痕跡を間接的に観察しているに過ぎず、構造形成の実態や、製造工程を通じて複雑に絡み合うプロセス因子の因果関係を直接明らかにすることは困難です。
そこで、我々は波長掃引型光コヒーレンストモグラフィー(SS-OCT)と異種装置からなる複合システムを開発し、様々な環境下でのオペランド観測※ 1 を実現しました。SS-OCT は、近赤外光を用いて毎秒数万回の深さ方向スキャンを行い、マイクロメートル・ミリ秒オーダーで内部構造を可視化できる計測技術です。さらに、高い可動性と可搬性を備え、多様な実験装置との組み合わせによるオペランド観測を可能にします。
例えば、図3 は、SS-OCT とイメージ炉(IR 集光炉)を組み合わせた高温オペランド観測システムです。イメージ炉は、50 ℃ /s(3000 ℃ /min)で1600 ℃まで加熱することができます。本システムを用いた焼結研究では、急速加熱中の不均一な変形と構造変化、さらには欠陥形成との因果関係の解明を進めています。
このほか、スラリー乾燥過程や圧粉体の吸水・崩壊過程を観測する複合システムも開発しました。小型化・無線化が進んでいる分光器なども組み合わせると、その場観察だけでは断片的にしか知ることのできなかった材料プロセスの「物語」をさらに深く読み解くことができます。

研究・開発で苦労している点

オペランド観測で取得した生データのみでも興味深い挙動は見られますが、本質的には、OCT像の特徴的な信号パターンやその変化が何を反映しているのかを明らかにすることが重要です。そのためには、図1 や図2 で示した観察手法や、X線CTなどによる並行評価が有用です。さらに、ビッグデータから構造変化の情報を抽出する画像処理技術や、構造変化を定量的に可視化する解析技術などの開発も求められます。

研究・開発の成果がどのような分野で役立つ可能性があるか

セラミックスは、エネルギー、電子機器、医療、輸送など幅広い分野を支える基盤材料です。オペランド観測により、これまで見えなかった製造プロセス中の構造形成を理解できれば、材料設計と製造プロセスを結び付けた革新的なセラミックス開発の実現につながり、高性能化・高信頼化・省エネルギー製造への貢献が期待されます。


研究員について

Q. これまでの経歴を教えてください。
高専の専攻科から大学院に進学し、KISTECの前身である神奈川科学技術アカデミー(KAST)のプロジェクト研究に参画しました。プロジェクト研究期間中に「公設試の研究者」に魅力を感じて機械・材料技術部の研究員となり、現在に至ります。

Q. なぜ研究者になったのでしょうか?
セラミックスの研究に初めて携わった高専時代に試行錯誤だけでは成果につながらない壁に直面し、なぜできないのか?を理解することの重要性を学びました。その疑問を追究するため大学院ではプロセス研究に取り組み、さらにセラミックスの複雑さと奥深さに面白さを感じ、博士課程へ進学しました。この過程で培った未知への好奇心と探究心が、研究者への道につながりました。

Q. 座右の銘を教えてください。
 「 原子の気持ちを考えてみたら?」と「人間万事塞翁が馬」です。

Q. 好きなことを教えてください。
美味しさの発見。アイデアが降りた瞬間。金曜日の夜。真夏の風景のコントラスト。チョコミントアイス。

論文および国際学会発表実績(受賞歴も含む)

【主要論文】

  • T. Takahashi, et al., Int. J. Appl. Ceram. Technol., 19(2), 1171-1179(2021).

【受賞】

  • 日本セラミックス協会国際交流奨励賞21世紀記念井関孝善賞(2023)
  • 粉体粉末冶金協会第47回研究進歩賞(2023)
  • 粉体粉末冶金協会第22回論文賞(2021)
  • 日本セラミックス協会進歩賞(2019)

用語解説

※1 オペランド観測:実環境下で、材料の構造・状態をリアルタイム観察し、それらの情報を定量的に解析することで機能との因果関係を解明する手法。


KISTEC NEWS online #18|vol.37(2026年9月発行) 研究紹介


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