振動インテンシティに基づく減衰の付与による振動低減|online#10
機械・材料技術部 機械計測グループ
松本 千裕
近年、機械製品の低振動化は重要な課題の一つとなっています。振動の伝搬特性を把握する手法の一つとして、振動インテンシティ(SI)※があります。SI を測定/ 算出することで、振動エネルギーの流れを可視化することができ、振動の伝搬経路の把握が可能となります。これまでにもSI を活用した振動低減に関する研究は行われており、エネルギー伝搬経路の把握や低振動化の効果は確認されていますが、具体的な対策箇所の決定方法や対策手法の確立には至っていません。そこで本研究では、SIの空間変化に着目し、減衰(ダンパ)付与箇所を決定するための方法の確立を目指しています。
目次
KISTEC NEWS online #10|vol.36(2026年6月発行) 研究紹介
研究内容・成果
伝搬部における制振対策は、質量・剛性の調整と減衰(ダンパ)の付与の二つに大別されます。
このうち、ダンパに関する既往研究は、建築分野における配置最適化を対象としたものが多く、一般構造物に対するダンパの最適付与位置に関する研究は必ずしも多くはありません。
その原因として、ダンパは振動速度に比例した抵抗力を発生するため、振動モードにおける振動振幅の大きい位置(腹)に付与することが有効であると一般的に考えられてきたことが挙げられます。
一方で、複数の腹を有する振動モードにおける最適付与位置は、十分に明らかにされていません。そこで本研究は、将来的に複雑な機械構造への適用を見据え、振動インテンシティ(SI)に基づいて粘性減衰ダンパの最適付与位置を明らかにすることを目的としています(図1)。
まず基礎検討として、一様はり(図2)を対象とした解析を行い、ダンパの粘性減衰係数に対する閾値を導出しました。その結果、入力位置に依らず入力近傍がダンパ付与位置となる領域を明らかにしました。
次に、ダンパが速度比例の抵抗力を発生することに着目し、振動速度とSI の空間変化を比較した結果、両者の極大位置が対応することを確認しました。
さらに、SI 空間変化に複数の極大位置が存在する場合には、入力点に最も近い位置でエネルギー散逸が最大となることを明らかにしました。以上より、SI 空間変化が最大となる位置(複数の極大位置が存在する場合は入力点に最も近い位置)へ粘性減衰ダンパを付与する方法を提案し、数値解析によりその有効性を検証しました。
その結果、粘性減衰係数が閾値より十分に小さい領域では、入力点に依らず本手法が有効であることを確認しました(図3,4)。
また、粘性減衰係数が大きい場合においても、入力位置には依存するものの、一部の条件では適用可能であることを確認しました。
現在は、材料の損失係数が本手法の適用範囲に与える影響についても検討を進めています。
今後は平板構造へ拡張し、二次元SI 分布に基づく振動エネルギー主流(伝搬経路)の定義および順位付け手法を構築することで、より複雑な構造物へ適用可能な手法の確立を目指しています。
研究・開発で苦労した点
周波数、入力位置、損失係数、ダンパの粘性減衰係数など、様々な条件に対して本手法がどの範囲まで適用可能であるかを整理する点に苦労しました。特に、条件によってダンパ付与位置の傾向が変化するため、手法の適用範囲を明確化する必要がありました。
そこで、まずは粘性減衰係数に着目し、その閾値を導出することで、特定の範囲では入力位置に依らず本手法が適用可能であることを示しました。
今後は、他のパラメータについても適用範囲を明らかにしていく予定です。
研究・開発の成果がどのような分野で役立つ可能性があるか
本研究では、粘性減衰係数がダンパ付与特性に与える影響を整理し、ダンパ付与位置を決定するための設計指標を提案しました。 また、はり構造で得られた知見を平板構造へ展開するための基礎指針を示しました。今後は、平板構造や簡易構造物、さらには実機への適用を進めることで、本手法の有効性を検証していく予定です。 将来的には、中周波数から高周波数領域における振動問題に対し、効率的な制振材配置設計への応用が期待されます。
用語解説
- ※振動インテンシティ(Structural Intensity)
構造物の単位幅または単位面積を単位時間あたりに通過する振動エネルギー(振動パワー)を表します。
振動インテンシティを測定・算出することで、振動の伝搬経路の把握、振動源の探査、振動パワー伝達量の評価などを行うことができます。
論文および国際学会発表実績
- 「一様はりにおける振動インテンシティに基づくダンパ最適設置位置の検討」、Dynamics and Design Conference2025(日本機械学会)にて発表
研究員について
Q. これまでの経歴を教えてください。
大学院修士(博士前期)課程修了後、KISTECに入所。振動・音に関する研究に約2年間従事、現在に至る。また、博士後期課程に在学中。
Q. なぜ今の分野の研究をしているのですか?
振動問題をエネルギーの観点から捉えるという、出身研究室の考え方に興味を持ったことが、現在の研究分野を選んだきっかけです。また、父の影響で幼い頃から研究職に関心があり、機械学会主催のメカジョフォーラムを通じてKISTEC を知り、地域産業に貢献できる点に魅力を感じて研究員を志望しました。
Q. 座右の銘(もしくは、尊敬している人物)を教えてください。
尊敬している人物は、理系に進むきっかけとなった父と、振動・音響分野に興味を持つきっかけとなった山崎徹先生です。
Q. 好きなこと、休日にしていることを教えてください。
美味しいごはん屋さんやカフェを巡ることが好きで、休日はよく旅行にも出かけます。
KISTEC NEWS online #8|vol.36(2026年6月発行) 研究紹介
設備ナビ・技術部紹介・インフォメーションの記事内容は刊行物のPDF資料にてご覧いただけます。
- 設備ナビ:エネルギー分散型微小部蛍光X線分析装置
- 技術部紹介:X線CTを用いた3Dプリント造形品の設計値と実測値の変位差比較
- インフォメーション:研修・教育講座のご案内/「KISTEC Bio Open Lab.」を開設しました!/ 90秒でわかる!紹介動画を公開!
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