令和2年度産学公連携事業化促進研究の結果概要

令和2年度産学公連携事業化促進研究の結果

研究課題①

牛の人工受精受胎率の向上を目指した運動良好精子選別と凍結工程のシステム化開発

株式会社協同インターナショナル、横浜国立大学、KISTEC電子技術部

 海外で和牛肉が人気商品となったことに伴い、和牛肉の生産に不可欠な和牛の子牛の増産が緊急の課題となっています。しかしながら、繁殖農家の減少や和牛の受胎率の低下などにより、和牛の子牛の増産は難しい状態となっています。
 本研究では、横浜国立大学が保有するマイクロ流体に関する解析・評価技術とKISTECが保有する微細加工技術を活用して、(株)協同インターナショナルが和牛の子牛の増産技術に関するシステム化に取り組んでいます。最終年度の令和2年度は牛の運動良好精子選別用デバイスの試作と評価を行なった結果、牛の運動良好精子を効率的に集められるデバイスの形状を発見し、特許出願しました。また、牛精子に対して無害な樹脂の親水化処理方法を見出しました。
 これらの成果をもとに,牛の人工受精受胎率の向上を目指した運動良好精子の選別を実用化する研究開発資金を得るために,令和212月に日本中央競馬会が公募する「令和3年度 日本中央競馬会畜産振興事業 公募」に申請を行いました。また,牛の運動良好精子選別用デバイスを組み込んだシステム化も視野に入れて,令和32月に生物系特定産業技術研究支援センターが公募する令和3年度イノベーション創出強化研究推進事業に申請を行いました。

 

マイクロ流路写真

樹脂の親水化処理が牛精子に与える影響を
評価している光学顕微鏡写真


研究課題②

超高真空製膜装置用脱着式ポータブル走査型電気化学セル顕微鏡の開発

神奈川大学、バキュームプロダクツ株式会社、金沢大学、KISTEC川崎技術支援部

 Liイオン電池材料やペロブスカイト材料は大気中では急激に劣化する為、作製直後に真空もしくは不活性ガス中での評価が必要となります。本研究では、ナノ領域における電流・電位計測、局所的な充放電マッピング等の評価が可能な走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)とコンビナトリアル試料作製技術を組み合わせることで、試料作製から評価まで一貫して高速で処理できる装置の開発を目的としています。初年度は真空チャンバーに組み込んだSECCMの開発、2年目はSECCMに用いる真空用ステージの設計・製作を行うとともにレーザー堆積装置との接合・受け渡し動作試験を実施しました。
 最終年度である今年度は動作試験の結果を基に装置改良を進め、製品化を目指してきました。加えて、SECCMで計測したサンプルを真空保持のまま装置外に取り出して移送できる真空移送カプセルも開発・作製し、他の計測場所まで真空を保ったまま試料劣化を抑制して輸送することが可能になりました。
 最終的な装置の形態としては、今回試作したプロトタイプを基に、ユーザーの試料受け渡し形状に合わせてトランスファー部分をオーダーメイドして販売するというセミオーダー方式になる予定です。

電気化学セル外観

装置全体図


研究課題③

バインダジェット3Dプリンタを用いたセラミックポーラス体の造形とその焼成

株式会社吉岡精工、株式会社ExOne、KISTEC機械・材料技術部

 近年、セラミックポーラス体を利用したポーラスチャックは、半導体製造装置分野で多く採用されるようになり、半導体部品の小型化や軽薄化によりセラミックポーラス体に求められる品質も高度化しております。セラミックスの製造は原料粉末の調整、粉末成形、焼結の工程を経るのが一般的です。この工程でポーラス体を製造するには、気孔を発生させるための造孔材や有機バインダの添加等が必要となり、工程が複雑になります。
 本研究では、ポーラスチャックを設計・製造・販売している()吉岡精工が()ExOneの有する三次元積層造形技術(バインダジェット3Dプリンタ)を応用してセラミックの原料粉末をポーラス体に積層造形し、KISTECが有するセラミックスに関する様々な製造技術や分析・評価技術を活用することで、ポーラスチャックに使用可能なセラミックポーラス体を開発することを目的としています。初年度は、バインダジェット3Dプリンタで積層造形したアルミナ粉末成形体の脱脂・焼結を行い、本製造プロセスが有効であることを確認しました。2年目の令和2年度はアルミナ粉末の粒径を変化させたときの気孔率の変化について検討しました。気孔率は原料粉末粒度によって変化することが分かり、ポーラス体の気孔率の制御が可能であることを確認しました

アルミナの粒度を変化させた時の気孔率と組織の変化

アルミナの粒度を変化させた時の気孔率と組織の変化


研究課題④

ダイレクトメタノール燃料電池の実用化に向けた試作研究

アットドウス株式会社、ヨダカ技研株式会社、KISTEC化学技術部

 電気浸透の原理を用いたポンプ(EOポンプ)は、機械的な可動部分がないため脈動がなく、極微小流量から安定した送液が可能という特徴があります。また、密閉構造のため空気の混入や液漏れ、コンタミの心配がなく医療機器向けを始め様々な分野への応用が期待されています。しかしながら、EOポンプの駆動には数十ボルトの比較的高い電圧が必要になり、ウェアラブル用途や携帯・可搬型用途では、その電源が問題となっていました。
 本研究では、アットドウス株式会社が、ヨダカ技研株式会社の持つEOポンプの技術とKISTECの持つマイクロ燃料電池技術を活用して、これまでにない新たなダイレクトメタノール燃料電池の開発を進めています。初年度はEOポンプの耐久性改善とマイクロ燃料電池の集積化を行い、2年目の今年度は基板上に超小型の燃料電池を直列に複数配置したマイクロ燃料電池を用いて、EOポンプの駆動に初めて成功しました。次年度はこの新しいマイクロデバイスの用途展開を図り、早期の事業化を目指します。

マイクロ燃料電池とEOポンプ

マイクロ燃料電池とEOポンプの接続の様子


研究課題⑤

省力化・自動化システムを備えたペロブスカイト太陽電池製造及び評価装置の開発

桐蔭横浜大学,ペクセル・テクノロジーズ株式会社,アステラテック株式会社,KISTEC川崎技術支援部

 近年、発電性能が高く、薄膜化フレキシブル化が期待できるペロブスカイト太陽電池(PSC)が注目されています。PSC作製は真空プロセスが不要で、溶液塗布による工程であるため多くの企業が参入を検討しますが、現時点では手作業による作製に頼っているため再現性と歩留まりが低く、研究の足枷になっている状態です。
 本研究では、最適作製条件を組込んだPSC自動製造装置を開発することを目的としています。作製の自動化が実現できれば、経験値に関係なく安定した成膜が可能となり、研究を大幅に加速させることができます。二年目となる本年度はドラフト内に設置し、スピンコーターを収納するドライボックスの試作を行いました。
 PSCは湿度の影響を受けやすく、作製時期によって性能が大幅に変動します。大気よりも若干高めの圧力に設定した窒素ガスをドライボックス内に流すことにより湿度を低く抑えることができ、再現性を高めることが可能となります。さらに、ドラフト内に設置することで気化した溶媒成分を迅速に排出して作業者の安全を守ります。

ドラフト内に設置したドライボックス

ドラフト内に設置したドライボックス


研究課題⑥

ステンレス表面の改質が抗菌作用に与える影響の評価と事業化

株式会社サーフテクノロジー、学校法人関西大学、KISTEC研究開発部

 ウイルスや細菌の感染リスクを下げ、生活環境を向上させることは非常に重要な課題です。そのため、様々な抗菌剤や抗ウイルス剤を塗布、練りこみをするような研究開発が進められていますが、薬剤による感染制御は薬剤耐性菌や変異ウイルスの産生につながる可能性があり、社会的な問題となることがあります。その点で、マイクロディンプル処理(MD処理)を行ったステンレス表面による抗菌作用は特別な薬剤を使用することがないため、耐性菌や変異ウイルスの産生を予防しながら、感染リスクを下げる可能性が高く、非常に有効な抗菌加工品となる可能性が高いものです。本研究では、その表面処理の状況と抗菌作用を深く検討することで、効率的な抗菌加工を発揮する製品開発とその事業化を目的に検討を行っています。
 初年度は、ステンレス材へのMD処理の条件を検討し、その表面形状と抗菌性及び殺菌性について検討を行いました。初めに2種類のMD処理条件による表面形状の違いについて検討し、表面粗さパラメータに違いがあることを明らかとしました。さらに、この2種類のMD処理面による抗菌性能を確認し、大腸菌に対して高い抗菌効果が得られることを確認しました。

MD処理を行った表面画像

MD処理を行った表面画像

各種MD処理面の大腸菌に対する抗菌力評価試験結果

各種MD処理面の大腸菌に対する抗菌力評価試験結果


研究課題⑦

超長寿命形状記憶合金「ウルトラニチノール」の実用化に向けた熱処理工程開発

東京工業大学、株式会社古河テクノマテリアル、KISTEC機械・材料技術部

 形状記憶合金には超弾性と形状記憶効果がありますが、実用化はほぼニチノール合金の超弾性を利用したものに限られています。これは、形状記憶効果を利用した場合、繰り返して使用することにより機能劣化が起きやすいことに原因があります。東京工業大学により開発された「ウルトラニチノール」は、この機能劣化の問題を解決するために開発された合金で非常に高い耐久性を持っており、実用化のために熱処理工程の開発が求められています。
 本研究では、東京工業大学のウルトラニチノールに関する研究シーズとKISTECの熱間加工及び材料評価技術、()古河テクノマテリアルの合金製造技術を活用して事業化に取り組んでいます。初年度は偏析・析出挙動の解析とインゴットのスケールアップに取り組み、目標の組成を持つ準工業レベルのインゴット作製に成功しました。今後は、熱間加工性試験と偏析・析出挙動の更なる解析により熱間鍛造条件の最適化を目指します。

作製したインゴットの外観

作製したインゴットの外観


研究課題⑧

極短深紫外ファイバーレーザによる基板のマイクロ加工装置の研究開発

株式会社クォークテクノロジー、株式会社ファシリティ、KISTEC電子技術部

 現状のレーザによる加工は近赤外域光が主流であり、自動車をはじめとする金属・ガラス等の加工に用いられています。しかし、有機材料や微細加工には限界があり、今後は深紫外域レーザの活用が期待されており、さらに加工精度や材料へのダメージ低減等の観点から短パルスなレーザ加工のニーズが高まることが期待されています。本研究では、ファイバーレーザを光源とする事で小型化を狙い、ナノ秒よりも極短パルス化した深紫外線を用いたコンパクトなマイクロ加工装置を開発しています。
 課題であるレーザ光源として、ファイバーレーザの1030nmでの極短パルス化を目指しており、株式会社クォークテクノロジーのレーザ光源と、株式会社ファシリティの駆動系制御技術を組み合わせることで、マイクロ加工装置の研究開発を進めています。
 これまでに、レーザ光源として、1030nm7ps100MHzにおいて、4mWの出力を得られています。更に、SHG(2高調波発生)により周波数変換を行い、2倍波(515nm)での出力も確認しています。今後、第3、第4高調波発生により、343nm257nmでのレーザ発振を目指します。

レーザ加工装置開発の実験風景

レーザ加工装置開発の実験風景

開発中の小型UVレーザ発振部

開発中の小型UVレーザ発振部


研究課題⑨

高速伝送用FPCの製造技術及び電磁ノイズ低減技術の研究開発

山下マテリアル株式会社、青山学院大学、KISTEC電子技術部

 通信インフラの世界では第5世代移動通信システム(5G)のサービス開始に伴い、100G400G800Gbit/sの高速伝送大容量化に向けてデータセンターなどの機器間を繋ぐ光トランシーバモジュールの高速化が進んでおり、薄く屈曲性を持つフレキブルプリント配線板(FPC)にも1配線当たり、数G100Gbit/sの伝送を可能とする性能への要求が高まっています。
 本研究では青山学院大学が持つ3次元電磁界シミュレーション技術とKISTECが持つ高周波測定技術を活用し、山下マテリアル()が高速伝送用FPCの製造技術の研究開発に取り組んでいます。初年度は、線路直下のグランドに改良を加えることで基板厚を従来の半分とした場合においても同等の伝送性能を実現し、また、FPCの構造のままカードエッジコネクタへの篏合を可能とする技術を開発しました。今後は実用化に向けた改良を進め、高速伝送用FPCの研究開発に取り組んで行く予定です。

高速伝送用FPC試作基板


研究課題⑩

電解ミスト抑制法の開発

合同会社アイル・MTT、旭産業株式会社、KISTEC化学技術部

 クロムめっきの工程では水の電気分解にともなって水素ガスや酸素ガスが発生します。そしてこれらのガスとともにめっき液が飛沫として同伴し、有害な6価クロムを含むミストがめっき槽から飛散します。6価クロムは鼻潰瘍、鼻中隔穿孔、気道障害、皮膚障害等の健康障害を引き起こし、ヒトに対して発がん性もあるため、作業環境上、何らかの対策が必要となります。
 本研究では、ミスト防止剤を用いてめっき液からミストを抑制できる手法を開発することを目的としました。初年度は、安価で酸化分解されにくい界面活性剤をミスト防止剤として選択し、密着性試験結果からこの界面活性剤はクロムめっきの密着性に影響しないことを確認しました。また、界面活性剤の泡沫でめっき液表面を覆ってクロムめっき処理を行った場合、通常の場合と比べて、6価クロムのミストが1/150以下に抑制できました。今後は界面活性剤の濃度や添加法等を変えて、効果的にミスト抑制できる条件を検討する予定です。

通常の電解メッキ

通常の電解めっき

泡で被覆した電解メッキ

泡沫で表面を覆った時の電解めっき